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小児科から、地域医療が崩壊する(長文)

[2022.01.16]

令和4年1月16日

医療法人社団ケアコミ あい小児科 理事長 丸山善治郎

 

 私は、医療的ケア児の訪問診療を行っている。担当する医療的ケア児は、埼玉県立小児医療センターに通院している。しかし、高度専門医療の埼玉県立小児医療センターは一般の感染症に対応していない。つまり、感染症で発熱しても入院できないのだ。主治医が医療センターとしても、発熱では入院できない。発熱などの場合、地域の中核病院小児科に入院できることもある。しかし、気管切開、人工呼吸器、胃ろう、人工肛門などを常時使用している医療的ケア児が、一般病院の小児科病床に入院できるかというと現実的に難しい。お母さまの付き添いが可能である時もあるが、完全看護の病院(付添不可)では医療的ケア児の個性に合わせた呼吸器設定や吸引、胃ろう注入、服薬管理など手厚いケアを病床で提供するのは非常に困難な作業である。単純に、体に管や機械があると入院するのが難しいのです。地域の医療的ケア児たちは、自宅でのケアと在宅医療で完結する(私は籠城と呼んでいる)方法を取らざるを得ない。令和2年の初めにコロナの市中感染が出た時、医療的ケア児のママたちと相談した。籠城するための準備を始め、家族やケアスタッフ、通所する事業所への医療的サポートと早期発見・早期診断・隔離(通所しない・籠城)などの感染防止対策を実践してきた。最もリスクの高い子どもたちを守るために、私は自分のスキルを使ってPCR検査を自分でやるという方法を選んだ。理由は、医療的ケア児を守るためだ。当時は検査ができなかった。

令和2年10月より院内にPCR検査装置を配備した。発熱外来を常設し、これまで約7000人分の検査を実施し、約700人の陽性者を確定してきた。令和3年8月家庭内感染による子どもの陽性者急増と当時の子育てママ・パパ世代への予防接種が遅れていたことを指摘して、朝日新聞で取り上げられた。

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20210824002664.html

その後令和3年10月、急速に感染が収束し3か月間で陽性者はたった3人だった。しかし、年末に1人陽性となり、1月3日から毎日陽性者が出るようになった。年始の陽性者は、クリスマスから年末にかけての感染。その次は、年始の感染が10日以降に陽性となり、その頃には検査件数が増えると同時に、1日の陽性者が二桁となった。オミクロン株主体の今回の感染の波は、政策としての検査体制の強化によるところも大きい。これまでは、保健所が濃厚接触者と判定しなければ、公費で検査を受けられなかった。軽症者や無症状の方は検査されず、人知れず感染して軽快し免疫を得ていたと考えられる。市中感染が起こっている状態とはそういう状況だと理解している。しかし現在、埼玉県も無料検査を実施しており、薬局や指定の医療機関で無症状でも検査が可能だ。あい小児科も無料検査窓口を設置し、診察日には毎日検査を実施している。今月11日からは、毎日のように無料検査から陽性者が出ている。陽性の結果を電話で伝えると、発熱していることが多い。つまり、発症(発熱)前に検査を受けたのだ。発熱外来と無料検査の大きな違いは、陽性率だ。感染拡大時期となった現在の発熱外来陽性率は、1~2割。無料検査は5%未満。つまり、感染が落ち着いている平時の発熱外来と同じ程度。しかし、20人検査すれば、1人ぐらいは陽性者が出るような日が続いている。実際、濃厚接触者と言われていないが接触した人の中に陽性者がいたという話を無料検査の問い合わせ電話でよく聞く。世の中の関心が高くなり、無料検査を受ける人が増えてくると感染率は変わるかもしれない。

 小児科に話を戻す。

 岸田首相の話の中で、子どものコロナの話は稀だ。10歳未満の予防接種も、後回しになった。入院リスクが少ないという理由だが、本当にそうなのだろうか?

 今、年末年始に10代後半から20代の若い人たちが交流し、オミクロン株が急速に感染した。軽症だから大丈夫という風潮は、感染者の急増に押し流されて議論されなくなるかもしれない。若い大人達が感染すると、家庭や職場、学校に持ち帰り感染を広げる。当然、エッセンシャルワーカーや家族の中の子どもたちが感染する。今まさに、日本中の家庭内でオミクロン株が増えている。発症するまで3日、それから5日程度のどに感染したウイルスが爆発的に増殖し、咳を通して拡散する。食事の時にマスクを外したら、あっという間に周囲に広がるという構図だ。理解できない人はいないだろう。先週ブログで、13日、14日記録的に感染者が増えると予想した。現実となった。来週も倍、それ以上の感染者が出るだろう。しかし、検査体制、保健所の処理能力が限界になったところで頭打ちになる。もはや感染者数を追っても意味がない。草加の町にも普通にコロナウイルスがまき散らされている。隔離など追いつくはずがない。

 数字には出ない恐怖を感じているので、本ブログを書いている。

 昨年、発熱者を断る医療機関が多くなり問題になった。国は慌てて発熱外来を設置するという方法を取り、多くの発熱患者を診察できるようになった。駐車場にテントを作った診療所も多い。発熱外来を続けているところもあれば、閉鎖したところもある。補助金などの支援が終われば、臨時の外来は閉鎖せざるを得ない。そういった背景の中、今密かに子どもたちにオミクロン株が近づいている。子どもたちは新型コロナウイルスワクチン未接種だ。一度感染した子ども以外、新型コロナウイルスにナイーブな状態なのです。つまり、新型コロナウイルスに初めて感染する子どもたちが今後急増すると予測される。

 確かに子どもたちにとって新型コロナウイルスは、ただのかぜかもしれない。しかし、新型コロナウイルスに感染したことが無いナイーブな子どもたちが集まる保育園や、幼稚園、小学校にウイルスが侵入したら何が起こるか考えてみてください。一気に、感染が広まります。今、まさにその状態だ。無症状、軽症、あるいは受診や検査の遅れによる診断の遅れにより感染力の高い状態のまま、ナイーブな集団に入り込んでいる子どもたちがこれから増えてくる。現在ワクチン未接種の集団とは、幼稚園、保育園、小学校である。感染対策が難しい幼稚園、保育園の関係者は戦々恐々だ。1人感染者が出た(解った)時点で、地獄と化す。保健所は、1日3桁の感染者が出ている状況では個別の対応は難しい。一つの市であれば、二桁かもしれないが草加保健所は、多くの市町村をまとめるので業務量は想像を絶する。濃厚接触者の判定も医師会に依頼が来た。あい小児科では、11日に緊急事態宣言時と同等の対応をすると職員に通達し感染対策を強化した。

 多くの子どもが一度に発熱したり、濃厚接触者になったりすると、一般の小児科での対応は困難だ。地域で診療されている高齢の小児科医にとって新型コロナウイルス感染症は、全く新しい感染症である。感染対策も経験だけでは不十分だ。新しいことに対応できる小児科、小児科医が地域に十分そろっているという地域は稀だろう。少子化に伴い、小児科外来患者数は激減し、平時は小児科だけでは成り立たないという背景もある。コロナ禍で、大きな影響を受けた診療科は、耳鼻科と小児科だ。埼玉県立小児病院の運用しかり、小児科診療は、脆弱になりつつあった。そんな中、オミクロン株がナイーブな子どもたちに襲い掛かっているのだ。

 私の予感が外れることを祈るが、小児科から地域医療の崩壊が始まることを想定した方が良い。一つの対策として今すぐ実現できるのは、無料検査の活用だ。子ども医療は地域密着。概ね子どもは県民だし、家族も県民だ。つまり、感染拡大時である今は不安があれば無料で検査できる。エッセンシャルワーカーの多くも、地域密着だろう。保育園、幼稚園、小学校などの子どもに関わる職種には、無料検査、特に抗原検査を毎日実施すると良い。少なくとも、職員が感染を拡大することを未然に防ぐ、あるいは最小限にとどめられる可能性がある。埼玉県に問い合わせたところ、県民のための無料検査だから住民票が県外であれば県外の検査機関でやるのが原則だと返事が来た。筋を通すのは良いが、県内の事業所に働く県外の人を無料検査の対象から外すなどというのは愚策だ。保育園が休止すれば、利用者である働く子育てママ・パパが休職することになる。エッセンシャルワーカーの休職につながる。休めない職種は、医療関係だけではないので柔軟に対応すべきだ。感染者が出た保育園の担当者の声を是非聴いてほしい。

 そして感染してしまった子どもの子育てママ・パパへの支援が急務だ。

無症状や軽症で実際に今保育園に通っている子どもを濃厚接触者として健康保険利用でPCR検査した。すると何人かは陽性が出ます。翌日、翌々日にはたいてい熱がでます。普段元気な子どもたちは、かかりつけ医がいない子もいます。通常業務として乳児健診や予防接種をやっている小児科は、コロナ患者となった子どもたちを同時に診察することができません。非常に難しい問題です。あい小児科は、時間帯と診察スペースを感染者は1階の発熱外来、予防接種は2階という形でゾーニングしている。それができる小児科診療所は逆に少ないだろう。ゾーニングできない場合、診察時間を調整する形対応することになる。更にこれから新型コロナワクチンのブースター接種が始まる。市内の多くの小児科も、コロナワクチン個別接種に協力した。しかし、予防接種と感染者の診察を同時に行うのは困難だ。小児科は難しい対応を迫られている。もはや小児科は、ブースター接種の個別接種は縮小し、小児診療に特化しながら発熱対応に方向を変える必要がある。今週のコロナ陽性者の中に、コロナワクチン2回目接種が11月という事例があった。予防接種から2ヶ月であれば抗体価が高く、予防効果も高いと推察されるが感染していた。予防接種が優先されるのは、感染が落ち着いているときの話で、もはやワクチンの効果の前に感染するリスクの方が高い。感染防護対策などを理由に、発熱対応ができない小児科は予防接種をがんばってもらいたい。

今まさに、正念場です。

10歳未満の感染者が急増した場合、小児科から医療崩壊する。

崩壊する前に、埼玉県無料PCR等検査事業を有意義に活用できるような運用に改善してほしい。私たちにも、コロナと戦う武器が必要だ。抗原検査は、一つの大きな武器になる。無料検査の原則を修正できないなら、エッセンシャルワーカーが毎日抗原検査するのに十分な抗原検査キットを配布すべきだ。医療従事者だけでなく、保育園や幼稚園の先生方を守ることが重要だ。

子どもに投薬できる新型コロナに効果のある薬は無いのだから小児科を受診しても、風邪薬しか出せない。

コロナ対策は、小児科外来に期待しない方が良い。

 

 

追伸

このブログを書いた後に、ネット記事を見つけました。大曲先生も、幼小保育園の対策強化を指摘しています。いよいよ現実味を帯びてきた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/47346b2d6cc07429dfebe5920f6b33a44472c710

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