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子どもの新型コロナウイルス感染症の特徴について【速報】

[2021.09.03]

子どもの新型コロナウイルス感染症の特徴について【速報】

あい小児科 PCRセンター長 丸山善治郎

令和3年9月3日

【追加・続報】

子どものコロナ(オミクロン株)について【続報・令和4年1月26日】 | あい小児科 (hhp.or.jp)

これまでは、子どもは新型コロナウイルス感染症が少ない、重症化しないというのが一般的な考え方であった。しかし、夏休みに入ったころから10代の感染者が増加した。更に8月に入ると急に10歳以下の感染者が増加した。第5波と呼ばれている感染爆発は、デルタ株を中心とする変異したウイルスが主体となっているため、これまでの常識が通用しない。感染の特徴も変わってきた。つまり、経験が役に立たない。あい小児科PCRセンターは令和2年10月に開設し、通算5000人以上のPCR検査を実施し、500人以上の陽性者を確定した。8月の感染者は200人以上である。当センターにおける第5波の特徴を明らかにすると同時に、子育てママやパパへの予防接種の重要性について述べる。

 

【子どもにとっては、第1波だ】

新型コロナウイス感染症が蔓延し、1年半が経過した。小児科医の間でも、子どもの感染者は少ない、罹っても重症化しないという認識が強かった。結果として、小児科医は新型コロナウイルス感染症に対して準備ができていない。子どものコロナ感染症の実態を把握できていない。

あい小児科の発熱外来は、年齢問わず診療を行っている。親子、家族単位で受診、PCR検査を実施することも多い。令和3年の5月までも、子どもの陽性事例はあった。しかし、非常に少なかった。少ない子どもの陽性者については、ほとんどが親子感染、家庭内感染であった。実際は、保育園単位、学校単位、学習塾単位での接触を疑われ検査することもあった。予想に反して、陽性者は多発しなかった。子どものクラスターはあっても、感染経路は先生であった。当センターで、家庭以外の場所で子ども同士の感染が明らかになった例は少ない。

ところが、7月後半の夏休み期間に入り急に10代、8月に入り10歳以下の陽性者が増えた。子どもの行動の変化だと考えられたが、学校が夏休みであれば子どもたちの接触機会は減る。減らすために休校する。夏休み期間に子どもの感染者が増えるというのは、一見矛盾したデータであった。夏休みと言えば、子どもたちにとっては行動の自由、旅行、お泊り、プールなどむしろ活発に動くのが通常です。しかし、緊急事態宣言が発令され、自由は制限されていた。

では、何が変わったのか?

理由は、デルタ株、新型コロナウイルスの変異が原因だ。デルタ株と呼ばれる変異したウイルスは、これまでのコロナウイルスとは全く違っていた。感染力が強く、子どもにも感染する。子どもにもという表現が正しい。子どもを話題としているが、感染者数増加の主体はあくまで大人であることを忘れてはならない。大人の感染に伴って、子どもの感染が増えただけである。

お盆明けから、家庭内感染が注目された。妊産婦、周産期の感染も非常に問題があることが露呈した。子どもはコロナに感染しない、重症化しないという常識が覆ったからだ。ウイルスが変異したのだから、今までの常識が覆るのは当然だ。治療を受けられないことや、重症化、死亡などがクローズアップされるのは当然だが、感染拡大を防ぐ上では感染予防対策を徹底することが必要だ。そのためには、正確な情報を得ることが大変重要である。デルタ株を主体とする第5波は、子どもたちにとっての新型コロナウイルス感染症の第1波であるといえる。お腹の中にいる赤ちゃんも、生まれたばかりの赤ちゃんも、幼稚園や小中学校の子どもたちも、コロナに備える必要がある。

 

【家庭内感染は、小さなクラスター】

第5波に入り、濃厚接触者も急に増え親子単位、家族単位で検査を受ける方が増えた。これまでのクラスターは、病院や老人ホームと職場が中心だった。職場でもクラスターになれば急に陽性者が増える。感染防護対策を施設や事業所が行っているため、結果的にクラスターは多発していない。どちらかというと、病院や職場は予防意識が高いのだと考えられる。

しかし、今回は親子、家族の方々に複数陽性者が多発した。今までクラスターと言えば職場や集団生活であったが、今はクラスターといえば家庭である。当然と言えば当然で、家庭は生活の場であり、人間的な生活の場であるから、ウイルスも感染しやすい。つまり、親子関係、家族は、クラスターになりやすい。クローズアップされなかったのは、これまでは子どもに感染が少なかったからだ。春の感染から少しずつ子どもに感染が目立つようになり、夏休みに子どもの感染が急増した。主たる原因は、ウイルスの変異だろう。

 

【家庭内感染の中心は、ママだ】

親子単位、家族単位で検査を受けられる方々のお子さまの中には、0歳児を含めて陽性反応が出る。子どもが小さければ、小さいほどママとの接触が多い。パパではなく、ママである。もちろん、パパとママは接触が多いだろう。パパか、ママが感染すれば両親が陽性となり、結果的に子どもが感染する。当たり前の話であるが、これが現実だ。男女平等が叫ばれるが、子どもたちにウイルスを感染させているのはママである。これまでの感染は、仕事などで外出する世代や働くパパの感染が注目されていた。パパを隔離すれば家庭内にウイルスを持ち込まなくて済んだ。最近は、変異ウイルスの感染性が高いため隔離する前に家族内で感染が広まってしまっているのではないかと想像している。

なぜ、ママが原因かというと理由は2つある。

1,保育園など子どもが集まる場所での感染より、家庭内感染の方が圧倒的に多い。

正直なところ、保育園のクラスターは少ない。今までは、塾も、保育園も感染を広めているのは職員や先生、大人たちだった。しかし現在エッセンシャルワーカーの多くは、予防接種済みである。それほど広まらないのではないかと考えている。現状はこれまでのクラスター対策が功を奏している。

2,ママが陽性だと子どもはいずれ陽性となる事例が多い。

当センターで濃厚接触者の御家族を数多く検査してきた。子育てママ、母親が陽性となった場合、子どもたちが陽性となることが多い。正確な数字を出してはいないが、かなり多い。ママが感染したのにかからなかった小学生以下の子どもたちがいるのなら、そのご家族の感染対策について教えてほしい。ぜひ、子育て世帯で共有したい。

 

ママが感染したとしても、すぐに子どもが感染する訳ではない

 わかってもらいたい大事なことです。

発症する2日前からウイルスを排出するが、発症したころから症状が出ている間、概ね10日間ほどウイルスを多く排出する。その時期に子どもたちがウイルス暴露する。暴露したところで、すぐ感染が成立する訳ではない。暴露してから、数日~7日程度の潜伏期間(ウイルスが体の中に入ってから増殖するまでの間)あるので発症しない。つまり、ママの感染が確定してすぐ子どもの検査をします。検査した時が潜伏期間であれば、PCR検査結果は陰性となる。PCR検査で陰性となり安心して療養していたところ、数日後発症して再検査すると陽性というパターンも多い。

 

濃厚接触者の判定は、感染拡大防止の観点からの隔離が目的である。

決して、早めのPCR検査が目的ではない。

 

検査は遅い方が確実に陽性判定できます。隔離期間中にPCR陰性になったとしても行動制限や隔離、自宅療養が解除されません。ただ、ウイルスの量が増えていないという事実だけです。次の日にウイルスが増えて陽性になることも想定できます。無症状の方は、検査も陰性になる可能性が高い。自分が陽性とわかっても、決して慌てないでください。大切なお子さまたちを預けるなどの隔離も、さらなる感染を広げる可能性があるので慎重に検討しましょう。行政が進めているPCR陰性の子供たちの預かり事業は、リスクがあることを認識した方が良い。子どもは重症化することが少ない傾向があるので、在宅生活の中で療養することも選択肢の一つだろう。しかし、親が重症化すれば、子どもの処遇は難しくなる。感染者の子供たちを預かるなら、それなりの感染対策、検査体制を用意すべきだ。

 

【コロナとインフルの違いは、潜伏期間と重症化率】

インフルやカゼと、コロナは何が違うのか?

インフルエンザ感染で入院が増えるより、コロナ感染の方が圧倒的に多い。重症化して入院ができなくなるほど入院が増える。つまり、重症化率はコロナが明らかに高い。新型コロナウイルス感染症が重要視されている理由である。

臨床的な特徴がもう一つ。潜伏期間である。

インフルエンザの潜伏期間は2日程度だが、コロナの潜伏期間は5日とも7日とも言われている。つまり、ウイルスに接して暴露する(体に入る)。その後症状が出るまでにインフルは2日、コロナは7日かかる。家庭内でも同様です。親がコロナウイルスに暴露して、数日してから発症する。発症前2日がウイルス排出開始時期と言われている。通常は、発症してから検査を受けて感染が判明しても、家族はまだ潜伏期間である可能性が高い。慌てて濃厚接触者として検査を受けても、発症前であればPCR検査は陰性となり、検査をすり抜ける。待機期間、隔離期間中に発熱して再検査を受けると陽性というパターンを多く経験した。一人一人の発症が5~7日ずれたとすると、家族内感染では、14日程度は平気でずれる。経験上は、家族の中で4週程度ウイルスが生存し続けるようなイメージだ。家庭内感染は、小さなクラスターと考えれば完全にウイルスを排除するまでそれぐらいの期間かかっても不思議ではない。ウイルスが体の外に出てからの生存期間よりも家庭内の感染は長い間、感染防止対策が必要となる。

 

無症状の濃厚接触者には、慌てて検査せず症状が出たら速やかに検査をするようにとアドバイスしている。

 

【子どもの陽性者は、ウイルス数が少ない?】

当センターは、500人以上の陽性判定を行った。検査結果は、陽性、陰性、再検査の3通り。再検査の場合、二度目の検査結果で最終診断を行う。実際に被検者には明らかにしていないが、PCR検査はCt値と呼ばれる定量的な値として結果を出し陽性、陰性を判定する。Ct値は、小さいほどウイルス数が多く、大きいほどウイルス数が少ない。デルタ株が流行りだした当初、Ct値が低く、ウイルス数が驚くほど多いことが特徴であった。私からすると、判定しやすい。これなら抗原検査でも確実に診断ができるだろうという印象を持っていた。抗原検査はウイルス数が少ない場合、診断が難しく、免疫反応などの偽陽性と区別がつきにくい。ウイルス数が多ければ、症状も典型的であり、抗原検査ですぐ診断できることも多い。一方、ウイルス数が少なくても確実に診断できるのがPCR検査の特徴だ。当院では発症後1カ月以内であれば、確実に陽性判定がでる。したがって過去に陽性判定を受けている方々の検査を見送っている。職場復帰などで検査を受けても陽性判定が出てしまうケースが多発した。PCR検査は、感度が高い。微量なウイルスも検出する。検査は目的に応じて選ばなければならない。

 直近のデータでは、子どもの陽性者は、Ct値が高い、つまりウイルス数が少ない事例が多い。濃厚接触者として発症前に検査している、発熱などの症状が出ていない、あるいは軽い症状の方を検査していることが一因かもしれない。

そこで考察されるのが、子どもが感染源ではないのではないかということだ。子どもが陽性となってもウイルスがそれほど増殖しない、保有するウイルスが少ない状態で経過するならば他人を感染させる可能性が減る。

 ここからは、私の推察です。

通常のカゼは、子どもがかかって家庭に持ち込み親も感染する。しかし、コロナは逆だ。大人が感染して子どもに感染さている可能性が高い。さらに、子ども同士が集まっている場所がクラスターにならない、なりにくい。それは、子どもはウイルス量が少ないからではなかろうか。勿論、子どもの感染が増え続け、学校内でクラスターが起こるような事態になれば私の印象も変わるだろう。

子どもでも風邪症状から肺炎になることも、これから増えるだろう。感染者が増えれば、重症者も増える。症状があれば、保育園や小学校には行かないのは鉄則だ。しかし、無症状、軽症のお子さまはウイルス数が少なく、検査をすり抜けて登園、登校してしまうかもしれない。軽症のお子さまはウイルス数が少ないので、幸い子ども同士の感染は少ない状況を維持している。それが保育園や学校の現状なのであろうと推察した。いずれにしても、これまでの論文のデータは、デルタ株が流行る前のものであり、あまり参考にならないという印象だ。

ウイルスが変異したのだから、私たちは意識を変えなければならない。

「コロナを子どもにうつしているのは、大人たちだ。」

 

【私たちにできることは予防接種と検査】

コロナに有効な初期治療や予防薬が無い現状、隔離と予防接種が私たち現場の医師にできることだ。積極的にPCR検査を行い、陽性者を特定して隔離する。そして予防接種率を高める。

予防接種の問題点は、医療体制維持のため重症化予防の優先順位が高く、高齢者や持病のある方が優先された。その結果として若い人たち、健康な人たちの接種が遅れた。結果として子育て世代が犠牲となり、予防接種が後回しにされた。家庭内感染、家族内クラスターが問題となった今、それを予防するために子育てママ、パパへの優先接種が重要だ。優先接種の順位見直しが求められる。子どもの治療や予防接種ができない現状、今できることは子育てママ、パパへの予防接種である。

 

カゼの流行は、冬だ。コロナもまたやってくる。その前に、

子育て世代のママ・パパをワクチンで守る必要がある。

 

予防接種の予約、二回接種、免疫獲得までの時間を考えると先延ばしにはできない喫緊の課題だ。あい小児科は、草加市の子育てママ、パパを応援するために新型コロナウイルスワクチン予約枠を追加する取り組みを始めた。早速、24人の追加接種を今日実現した。10月末までに約100人の方に追加接種する予定だ。

 

あい小児科にできることは、治療ではない。PCR検査と予防接種。できることを、休診日返上してでも実行する。ワクチンが手に入るなら、接種枠を広げ地域全体の接種率向上に貢献する。予防接種に限っては、ワクチンが無ければどうすることもできない。PCR検査は、1日200人まではがんばって検査する。(といっても、1日100人を超えたことはない)それ以上は望まないで欲しい。7月からの感染拡大は、私たちのスタッフにも過剰な労働という大打撃を与えた。時間外勤務が急に増えた。これが続くと、離職者が出るだろうと予測している。一刻も早く収束に向かってほしい。あい小児科が休診・閉鎖にならないためにも、いま必要なのは冬への備えだ。

続報・BA.5系統オミクロン株について ↓

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